59 共通テスト記述はベネッセが採点

日本経済新聞によると、ベネッセが大学入学共通テスト記述式問題採点業務を61億6千万円で落札しました。期間は24年3月末まで。共通テスト終了後の約20日間で約50万人の答案を採点するには1万人程度の採点者が必要らしいです。ベネッセが採点者を集め、国と正答の条件や採点基準などを事前協議し、試験実施後に実際の解答を見て採点基準等を確定させるようです。NHKによると、ベネッセは共通テスト実施前に問題、正答、採点基準を入手するそうです。この仕組みならば当然ですね。しかし、ベネッセが2014年に起こした約3500万件の個人情報漏えい事件が脳裏をよぎります。この事件で私は500円の図書カードのお詫びをいただきました。(ひょっとして進研模試の採点アルバイトと同じ大学生が大学入試共通テストも採点するのだろうか。自分の記述問題答案とその採点結果の情報開示請求が殺到しそう。)

記述採点準備状況に関するベネッセ報道発表文 (もし著作権上問題があったら御連絡ください。報道発表文なので転載しても大丈夫とは思いますが。)

ところで、平成6年度実施へと導入見送りとなった英語民間検定試験は7種類ありますが、大学受験生は少しでも高得点を取るために、7種類から1種類に絞って、準備のために専用の参考書や模擬問題集を購入するでしょうし、練習に1~2年生で受験することもあるでしょう。その結果、実施業者は本番2回の検定試験受験料だけでなく、参考書、模擬問題集の代金や練習の受験料なども手にします。そして、恐らく大学受験生が受験する英語民間検定試験は、馴染みのある英検とGTECに集中すると思われますが、このGTECもベネッセが実施します。

見送りに関する萩生田文科大臣のコメント (こちらは官公庁の行政文書なので転載しても著作権上問題無いはずです。)

平成30年度の中学生の全国学力テスト(全国学力・学習状況状況調査)の採点や集計業務も約21億円でベネッセが落札しています。平成19年度から平成29年度までの小学校学力テストもベネッセだったと記憶しています。(この経験が共通テスト記述採点業務に活かされるのかな)

このベネッセは、私の孫が購入している「しまじろう」の「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」などの通信教育、中学校や高校の参考書と問題集、大学入試の模擬テスト「進研模試」、大学入試センター試験自己採点を集計して国公立大学の合格可能性を判定する「データネット」などで有名な、幼児教育から大学までを広くカバーする教育界、受験産業界の巨頭です。

このようにベネッセは、従来から非常に多くの受験生の大学入試模擬試験の結果、センター試験自己採点結果、大学合否結果、さらに小中学校の全国学力テスト結果などの情報を持っていましたが、今回から新たに、英語民間検定試験を通して多くの大学受験生の英語力の情報、50万人の大学受験者の記述式問題の解答情報も持つことになります。さらに次の大学入試改革として検討が進んでいると思われるITを活用したポートフォリオ導入もベネッセが主導する可能性があります。学力や入試に関わる多くの情報がベネッセに集中しているこの状況に、何かもやもやとしたものを感じるのは私だけでしょうか。幼児教育から大学受験までを独占という批判だけでなく、対象が子どもたちの教育だけに私は恐ろしさすら感じます。文部科学省の大学入試改革の委員会や分科会、作業部会等にベネッセ関係者が委員として加わり主導しているとは思いたくありませんが、一度調べてみようと思います。

教育界、受験産業界の巨頭なので、学校にもしっかり食い込んでいて、営業活動で何回も学校訪問をしています。教員向けの研究会等の開催や情報誌の発行、受験生や保護者向けの進路講演会も実施しています。岐阜県内の市町村教育委員会にはベネッセと密接な協力関係を結んでいる教委もあるようです。私の手元にも何枚かの名刺があります。

報道によると「ベネッセの模試や教材を導入しないことで生徒たちになんらかの不利益があってはいけないからという理由でベネッセを選択せざるを得ない」と語る高校教員もいるらしいです。実際、大学入試共通テストの英語民間検定試験や記述式問題採点を行っている業者の模擬試験や参考書、問題集は、本番と共通する傾向があるとか、本番の情報を踏まえた資料や問題が載っているとか思って使いたくなるでしょうね。

長文になり申し訳ありません。教育界の話題なのでついつい熱が入ってしまいました。   (HP表示回数 9,345カウント)

52 いじめ認知最多

10/18各新聞で文科省が実施した「平成30年度問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」が報道されました。調査対象は国公私立の全ての学校です。いじめ認知件数最多など調査結果の主な特徴は、新聞記事や末尾にリンクを貼った文科省調査結果報告書を御覧ください。ここでは、新聞記事等ではあまり触れられていないことで、私が気になった点を取り上げました。

  • 自殺した児童生徒が前年度250人から332人へ急増。学校から報告のあった自殺した児童生徒数は、小学校5人(前年度6人)、中学校100人(前年度84人)、高校227人(前年度160人)。直近5年間(平26→30年度)の推移は、小学校7⇒4⇒4⇒6⇒5人、中学校54⇒56⇒69⇒84⇒100人、高校173⇒171⇒155⇒172⇒160⇒227人、合計232⇒215⇒245⇒250⇒332人。中学校は5年間でほぼ2倍、高校は平成30年度に急増。
  • 小学校において、暴力行為発生件数が前年度28,315件から36,536件へ急増。加害児童数が前年度23,440人から31,107人へ、その内で関係機関で何らかの措置がとられた児童数は前年度241人から311人へ急増。中学校、高校は対前年度で大きな変化は無し。
  • 少子化で子どもの人数は減っているはずなのに何故増えているのだろうか。統計の精度の問題だろうか。何が起こっているのだろうか。県別の情報が欲しい。

岐阜新聞記事には岐阜県教委の「自分の気持ちをコントロールできない子どもが増えていると感じる」というコメントがあったが、その背景は何だろう。社会の変化や親や教員の多忙化に伴って家庭と学校に余裕が無くなり、子どもの発達や心の変化を受け止められなくなってきているのだろうか。    (HP表示回数 8,310 カウント)

平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(R01.10.17 文科省児童生徒課)

51 英語教育と大学入試

2021年1月実施大学入学共通テスト(現在のセンター試験の後継版)から導入される英語民間検定試験について議論されています。英語について、書く、読む、聞くの3技能だけでなく、話すを加えた4技能を問うように改善する中で、国数理社等のように国が直接実施するのではなく、英語は民間試験を活用することに決まったのですが、その英語民間試験の詳細が分かりにくく、また、大学側の合否判定への利用方法の詳細も不明なために、受験生の不安が大きく様々な議論が起きているようです。

萩生田文科大臣は10/1の記者会見でこの英語民間検定試験の導入について「高校生は、このシステムの実施を念頭に既に準備を進めており、システムは当初の予定通り2020年度から導入することとしますが、初年度はいわば「精度向上期間」、この精度は精密さを高めるための期間ということです。今後に向け、高校・大学関係者との間でも協議をし、より多くの大学がシステムを利用するとともに、受験生がより一層安心して、受験することができるように、システム利用の改善に取り組んでまいりたいと思います。」と説明しました。受験生からは実験台にはしないで欲しいというような反響もあるようです。

大学入試英語ポータルサイト(文部科学省)

文部科学省の英語教育担当部署が政策立案をしていると思われますが、今までのことを思い起こすと高校現場が不安に駆られるのもやむを得ないかもしれません。

  • 2002年度スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)がスタートしたが2007年度で新規指定終了。(華々しく登場したけれど僅か6年で新規指定終了。同時に登場したスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)は大きな成果を上げ、現在も継続している。)
  • 2014年度スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)がスタートしたが2016年度で新規指定終了。(華々しく登場したけれど僅か3年で新規指定終了。2019年度から焼き直しの事業を開始するという噂があったけれどどうなったのだろう。)
  • 2020年度から小学校の英語教科化(ある日突然、英語の指導法など全く学んだこともない教員、英語が苦手で小学校勤務を選んだ教員などに英語の授業をさせては、今から英語を勉強して授業しなければならない教員だけでなく、その授業で学ぶ子ども達も可哀想。現場任せの状況。)
  • 小学校、中学校、高等学校における各学年毎の学習到達目標が不明確(CAN-DO リストと表現されることもあるが、これが明確になっていなくて現場任せの状態。)
  • 国際バカロレア認定校等を2018年までに200校 などなど

余談を二点。一点目は中学・高校・大学と10年間も英語を学んだのに全く使えないのは学校の英語教育が悪いと言われることについて。それを否定はしないが、普段英語を必要としない人は英語を忘れる、英語力は身に付かない、ということも英語が使えない要素の一つ。私は大学卒業後の勤務では英語の必要性がほとんど無かった。なので、大学卒業時が英語力のピークでそれ以降は低下するだけ。使う必要性がなければ低下も当然。日本では、外国映画も外国小説・評論も日本語で鑑賞・読書できる。そうでない国では英語が必要なので学校卒業後も英語力が高く維持される。二つ目、大学入試は多く点数を取った人が合格する仕組み。英語民間検定を大学入試に使用すれば、受験生はベネッセなどの民間業者から最も高得点・高評価を得やすい業者を選択する。業者は営利を求める側面があるので、多くの受験生が選択してくれるように出題方法や難易度を工夫する。そして・・・。 (HP表示回数 8,178 カウント)